ご相談者のお話を伺う際、事実を確認することはもちろんですが、その方の感情に寄り添うことを大切にしています。相続や終活にまつわる問題は、それぞれの立場や背景によって同じ出来事でも異なる見え方をすることが多く、そこにご相談者の本当の「思い」や「想い」が表れていることがあるからです。
たとえば、父親、長男、次男と立場が異なる場合、それぞれの抱く「思い」もまた違います。父親としては自分が築いてきたものをどう引き継ぐかに重点を置き、長男は家族の責任を感じ、次男は自分の立場を大切にする「思い」があるかもしれません。それぞれの「思い」に対して、立場の違いが反映されるからこそ、解釈や受け止め方も異なるものです。
今回は「思い」と「想い」の違いについて考えてみました。
「思い」と「想い」のニュアンスの違い
日本語には、微妙なニュアンスを持つ言葉が数多く存在しますが、「思い」と「想い」もそのひとつです。どちらも心の内にある感情や考えを表す言葉ではありますが、そのニュアンスは微妙に異なります。 「思い」は、どちらかといえば冷静で現実的な印象を持つ言葉です。頭の中で浮かぶ考えや思考が主で、意識的な面が強いように思われます。一方、「想い」はより感情的で、心に深く刻まれるような感覚です。たとえば、言葉にはしづらいけれども、胸の奥に秘められた感情、経験や人間関係が影響している個人的な「想い」などが、そこに込められている気がします。
「想い」に寄り添う姿勢
相談を受ける際には、事実の確認を通して「どのようなお考えか」を伺うことは当然ですが、それ以上に、ご相談者が心に抱く「想い」にも寄り添うことが重要だと感じています。たとえ「思い」として言葉にされていても、その背後には「想い」という形で、ご相談者の本当の望みが隠れていることがあるからです。
たとえば、相続に関するご相談で「財産を分ける方法を知りたい」というご要望があったとしても、そこには「家族が仲良くしていてほしい」「親の残したものを大切にしたい」という深い「想い」が込められていることもあります。こうした「想い」に耳を傾け、共に考えていきたいものです。
「思い」と「想い」を尊重することの大切さ
同じ「思い」や「考え」であっても、立場や関係性の違いから、それぞれが抱く「想い」には微妙な違いがあります。その違いがぶつかったとしてもお互いの違いを尊重し、理解し合う姿勢を持つことを意識すれば一歩前に進めることができます。
成年後見や相続のご相談においては、それぞれが抱く「思い」と「想い」が、背景や価値観の違いからくるものであることが多くあります。それぞれが大切にしている感情を丁寧にくみ取り、寄り添い、調整することこそが、より良い解決につながるのだと感じます。
効果的な手続きと寄り添いのバランス
相続や終活に関する問題は、事実の確認と手続きの円滑な進行が欠かせません。実際にはご相談者のほとんどが「手続きを正確かつ迅速に進めたい」と願っており、行政書士の役割もその期待に応えることにあります。
手続きを正確かつ迅速に進めることが大切ですが、同時にご相談者の「思い」と「想い」をくみ取り、それに寄り添うことも大切です。ご相談者が表面的に求めるのは、確かに手続きの効率性です。しかし、その背後にある「想い」を理解し、対応することで、手続きが単なる事務作業ではなく、ご相談者にとって本当の意味で納得のいくものになるからです。
さいごに
多くのご相談者がまず知りたいのは、効果的な手続きの進め方や制度や効率に関する質問です。ご質問に一問一答することは専門家として大事ですが、同時にその質問に関する「思い」と「想い」にフォーカスすることを意識したいです。