成年後見制度について、いま見直しの動きが本格化しています。
令和7年6月、法務省は「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案」を公表し、制度のあり方そのものを問い直す議論が進んでいます。
成年後見制度は、高齢の方や障がいを持つ方の生活や財産を支えるための大切な仕組みですが、時代の変化や実務上の課題に応じて、いま新たなかたちが検討されています。
今回は、この見直しの動きについて、制度をご存じない方にも伝わるよう、できるだけわかりやすく整理してみたいと思います。

成年後見制度とは?
成年後見制度は、認知症や知的障がい、精神障がいなどにより判断能力が低下した方のために、法律的に支援を行う制度です。
たとえば、介護施設の入居契約や、預貯金の管理、不動産の売却、相続手続きなど、日常の暮らしの中では「本人の意思確認」が必要な場面が多くあります。
そのようなとき、家庭裁判所の選任によって「後見人」が代理で対応することで、安心して暮らせるよう支えることが目的です。
また、自分が元気なうちに将来に備えて契約をしておく「任意後見制度」もあります。こちらは、あらかじめ信頼できる人を決めておき、将来、判断能力が低下したときに発効するという仕組みです。
この制度自体は20年以上前からありますが、社会の高齢化とともに利用が進んできた一方で、「うまく活用できていない」という声や、現場での課題も多く聞かれるようになってきました。
制度見直しが必要とされる理由
現在の成年後見制度には、いくつかの課題が指摘されています。
ひとつは、「本人の意思がどこまで尊重されているのか」という点です。
一度後見人が選任されると、本人が本来自分でできることまで制限されてしまう場合もあり、生活の自由度が下がってしまう懸念があります。
また、後見人の役割が重く、特にご家族が後見人を務めることに不安を感じるケースも少なくありません。裁判所への報告義務や責任が大きく、距離的・心理的な負担も伴います。
そのため、結果として後見人の多くを弁護士・司法書士・行政書士などの専門職が担っているのが現状です。
本来であれば、身近な家族が関われることが理想かもしれません。けれども、「大変そう」「自分にはできない」という感覚や、「なんだか難しそう」「家のことに他人が入ってくるのは気が進まない」といった声も多く聞かれます。
その結果、制度の存在自体を知らなかったり、必要な方に制度が届いていないという実情があります。
見直しの方向性と、いま考えたいこと
今回の中間試案では、こうした課題に対して、いくつかの見直しの方向性が示されました。
たとえば、後見人が全面的に代理するのではなく、「必要な部分だけを支援する」という柔軟な制度設計が検討されています。
また、本人の意思を尊重するという考え方を基本に置いた支援のあり方や、地域での相談体制の強化、任意後見の使いやすさの向上など、将来を見据えた制度改革が進められようとしています。
一方で、制度が変わるのを待つだけでなく、今できることもあります。
たとえば、任意後見契約や見守り契約などを、早めに備えておく。
あるいは、「もしものとき、家族としてどこまで関わるか」を、元気なうちに話し合っておく。
それだけでも、いざというときの安心感は大きく変わってきます。
さいごに
制度の改正はすぐに実現するわけではありませんが、令和7年6月に法務省から「成年後見制度の見直し」に関する中間試案が公表され、今後の制度改正に向けた議論が本格的に進み始めています。
こうした動きがある今だからこそ、「どう見直されようとしているのか」を知っておくことで、これからの備え方を見つめ直すきっかけになるように思います。
成年後見は、「困ったときの最後の手段」ではなく、人生の後半を支えるための仕組みのひとつです。
それをどう活かすかは、制度だけでなく、わたしたち自身の意識にもかかっているのかもしれません。
私自身も、専門職後見人として日々の現場に携わるなかで、制度の限界を感じることもあれば、制度があったからこそ守られたご本人の生活を見てきたこともあります。
これからも、変わりゆく制度と、支え合う暮らしのあり方を、丁寧に見つめていきたいと思います。