令和元年の民法改正による、遺言執行者の権限が明確化されたことのお話です。
遺言があっても、この内容が実現できなければ遺言者にとって意味がありません。遺言は遺言者が亡くなって効力が発生するからです。そのために、遺言執行者の制度が設けられています。
しかし、以前の遺言執行者は、「相続人の代理とみなす(改正前の民法1015条)」とされていました。相続人の代理ですから、例えば遺贈等で遺言者の意思と相続人の利益が対立すると遺言執行者と相続人の間でトラブルになることもありました。
そこで、令和元年の民法改正によって、遺言執行者の権限が明確になりました。
通知義務の明確化
改正前の民法では遺言執行者の相続人への遺言内容の通知について明文規定がありませんでした。改正後は「遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない(民法1007条2項)」としました。
権利義務の明確化
「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。(民法第1012条1項)」とし、あくまでも遺言執行者は遺言の内容を実現することが責務であり、相続人の利益のために職務を行うことではないことを、明確にしました。
また、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生じる。(民法第1015条)」とし、遺言執行者の行為の効果が直接、相続人に帰属することを明確にしました。
特定遺贈の権限の明確化
改正前の民法では、遺贈の履行についての明文規定はありませんでした。改正後は「遺言執行者がいる場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。(民法第1012条2項)」とし、遺言執行者に遺贈の履行を請求することを明確にしました。
特定財産に関する遺言の執行
改正前の民法では、遺産分割の方法の指定として特定の遺産を特定の者に承継させる遺言(特定財産承継遺言)についての明文規定はありませんでした。改正後は、特定財産承継遺言があったときは、「遺言執行者は、当該共同相続人が第898条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる(民法第1014条2項)」とし、遺言執行者が、不動産の登記手続きや動産の引渡しができることを明確にしました。
また、民法1014条3項で、預貯金の解約の申し入れができることも明確にしました。
復任権
改正前の民法では、遺言執行者は、「やむを得ない事由」がなければ第三者に復任できませんでした。改正後は、遺言者が遺言に別段の意思を表示した場合を除いて、「自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる」として復任権を認めました。
まとめ
民法改正によって、遺言執行者の権限が明確に規定されました。遺言を作成する際には、遺言執行者の権限を理解し、信頼できる遺言執行者を指名することが重要です。遺言執行者が適切に遺言を実行することで、遺言者の意思を尊重し、相続人間のトラブルを未然に防ぐことができます。