以前、開催した相続セミナーのあと個別相談をお受けした際、参加されたある方がこんな言葉をこぼされました。
「これが“最後の藁”だったのかもしれませんね」
何気ないひと言でしたが、そのひと言が印象に残りました。
もともと相続のことは気になっていたものの、日々の忙しさやご家族との距離感もあり、なかなか具体的な行動に移すきっかけがなかったとのこと。
セミナーで話を聞き、その後の個別相談でご自身の状況を言葉にしていくなかで、「もう少し先でいい」と思っていた気持ちが、少し変化したように感じられたそうです。
“最後の藁”という言葉には、ネガティブな印象もありますが、この方にとっては、ようやく気持ちの整理がついた「区切り」のようにも思えました。
今回は、そのやりとりを通して感じた、相続に向き合うタイミングについて整理してみたいと思います。

「まだ早い」という意識の裏側にあるもの
相続や老後の準備は、必要性を感じていても、なかなか行動に移せないものです。
とくにご両親もご自身も元気なうちは、「今すぐではなくてもいい」と思ってしまいがちです。
ただ、日々の中で、気に留まる出来事に出会うことがあります。
・親の言動に年齢を感じたとき
・名義がそのままの財産を見つけたとき
・知人の相続トラブルを耳にしたとき
その一つひとつは小さなことでも、気がかりとして心に残り、積み重なっていくものです。
行動のきっかけは、案外こういうときに訪れる
今回の相談でも、「ずっと気になってはいたけれど、どこか他人事のように思っていた」とのことでした。
でも、セミナーを聞き、個別にご自身の家族のことを話し始めたことで、「これはもう後回しにできないな」と思えた、と話されました。
子どもに負担をかけたくない
できるうちに整理しておきたい
何かあったときに慌てたくない
そうした想いが少しずつ形になるとき、誰にでも「動こう」と思える瞬間が訪れるのだと思います。
すべてを一度に進めなくてもいい
相続の準備というと、「どこから手をつければいいのかわからない」と感じる方が多くいらっしゃいます。
ですが、すべてを完璧に整える必要はありません。
・現在の財産をざっくり把握してみる
・気になる制度を一つ調べてみる
・兄弟との関係や話す順番を考えてみる
そんなところから始めても、十分な“準備の一歩”になります。
さいごに
「これが最後の藁だったのかもしれません」
あの方の言葉は、今でも印象に残っています。
相続や終活に向き合うきっかけは、人それぞれです。多くの場合、それは特別な出来事ではなく、日常の中で重ねてきた小さな気がかりに、意識を向ける瞬間なのだと思います。
そうした変化に気づき、自分なりのペースで動き出すこと。それが、準備を始める一歩になる気がします。