遺言制度の見直しが進んでいます ~ デジタル時代の新しい選択肢 ~

法務省が、遺言制度の見直しに関する中間試案を取りまとめ、公表しました(令和7年7月15日付)。

この中間試案では、これまでの紙と手書きによる遺言だけでなく、デジタル技術を活用した新たな方式の遺言の導入が検討されています。

ふだんの生活の中で、「遺言」と聞いても、自分とはまだ関係ないと思う方も多いかもしれません。けれども、人生の節目や家族のことを考えたときに、自分の想いや意思をどう残すかということは、誰にとっても大切なテーマです。

この見直しの動きから、遺言制度がどこへ向かおうとしているのか、今回は、その流れを自分なりに少し整理してみようと思います。

手書きやハンコにとらわれない新しい遺言方式

現在の民法では、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言という三つの「普通方式」に加えて、特別な場面で使われる「特別方式の遺言」が定められています。

このうち、自筆証書遺言は最も身近な方法ですが、全文を自分で手書きし、押印する必要があります。最近では一部パソコンで作成できる部分(財産目録など)も認められるようになりましたが、それでも「手書き+ハンコ」が基本です。

今回の中間試案では、この「手書き」のルールをさらに緩和したり、パソコンやスマートフォンを使って遺言内容を作成し、録音・録画や電子署名などで本人確認を担保する「デジタル技術を活用した遺言方式」の創設が検討されています。

たとえば──

・電磁的記録で遺言を作成し、証人2人以上の立会いのもと、口述と録音・録画を行う方式(甲1案)

・証人を立てずに、生体認証や映像記録などで本人性を担保する方式(甲2案)

・作成した電磁的記録を、公的機関に提出して保管を受ける方式(乙案)

・電磁的記録をプリントアウトした紙の遺言書を、公的機関で保管する方式(丙案)

どの方式が採用されるかは今後の議論次第ですが、「遺言は紙で書くもの」という常識が、大きく変わるかもしれません。

なぜ今、制度の見直しが進められているのか

背景には、社会の大きな変化があります。

高齢化の進行、単身世帯の増加、家族のかたちの多様化――。

そうした中で、「法定相続のルールでは思いが伝わらない」「家族ではないけれど大切な人に財産を残したい」といったニーズが広がっています。

一方で、遺言を作る人はまだまだ限られており、「面倒そう」「難しそう」といった心理的ハードルもあります。

法務省によると、令和6年の死亡者数は約160万人でしたが、公正証書遺言の作成件数は約13万件、自筆証書遺言の保管申請は約2万件にとどまっています。

こうした現状をふまえて、

・もっと気軽に遺言を作れるようにすること

・自分の意思をきちんと遺す機会を広げること

・相続トラブルの予防につなげること

これらを目指して、制度の柔軟化が進められているのです。

制度が変わっても、大切なことは変わらない

デジタル化によって、私たちの暮らしはどんどん便利になっています。遺言制度も、その流れに合わせて変わろうとしています。

ただ、どんなに制度が変わっても、「自分はどうしたいのか」「誰に何を伝えたいのか」といった根本の部分は変わりません。

むしろ、選択肢が広がるからこそ、自分の意思を見つめ直す機会が増えるとも言えそうです。

制度の改正にはまだ時間がかかりますが、この見直しの動きは、「遺言は限られた人のものではない」というメッセージでもあるように思います。

だからこそ、「自分がいなくなったあと、大切な人に何を伝えたいか」

そんな問いを、この機会に少しだけ考えてみたいものです。

制度がどう変わっていくかを見守りつつ、いまできる準備を見つめ直す時間にしてみても、遅くはないはずです。

さいごに

遺言は、一部の人だけの特別な手続きではなく、誰にとっても向き合う価値のある準備です。

制度の見直しが進められている今だからこそ、自分の意思をどう伝えるか、どう遺すかを考えるきっかけにしていただけたらと思います。

「そのうち」と思っていたことに、少し具体的に向き合ってみる。その一歩を、今ここから踏み出してみる。

想いをかたちにする方法は、すでに用意されています。

この中間試案を機に、「自分にはまだ早い」と思っていた遺言について、現実のこととして考えはじめてみる。それが、これからの備えにきっとつながっていきます。

相続対策は事前準備が大切です。お早めにご相談下さい。

✉ お問合せフォーム

☎ 042-508-3031

この記事を書いた人

栗田 政和

栗田 政和

東京都府中市出身、現在は立川市内に在住。
中央大学法学部卒。
大学卒業後、住宅メーカーに32年勤務した後独立し、
行政書士栗田法務事務所を開業。
現在は行政書士兼相続コンサルタントとして、
立川近郊の相続問題に悩む方の助けになるべく奮闘中。
趣味はバイクツーリング、温泉巡り、幕末歴史小説、プロ野球観戦。