ちゃんと話しているはずなのに、なぜか伝わらない。
そんな場面は、相続の相談でも、日常生活でも意外と多いものです。
うまく伝わらなかったとき、「説明が足りなかったのかな」「言い方が良くなかったのかな」と、つい“話し方”に原因を求めてしまうものです。
しかし、伝わらないのは、話す側が悪いとか、聞く側が悪いということではなく、受け止め方が人によって違うから起きる場合が多いです。
わかりやすく説明することよりも、相手がその言葉をどう受け止めているのかを知ること。
そのほうが、結果として信頼関係につながります。
今回は、受け止め方を意識することについて考えてみたいと思います。

同じ言葉でも、人によって意味が違う
たとえば、日常のよくある場面です。
妻が夫に「ゴミ捨てておいてね」と頼んだとします。夫はゴミ袋を持って外の集積所に出し、「ちゃんとやった」と思って満足します。
でも妻のほうは、「各部屋のゴミ箱からゴミを集めて、袋にまとめて、外に出す」ところまでを含めて“ゴミ捨て”と考えています。
同じ「ゴミ捨て」という言葉を使っているのに、受け止めている範囲が違う。
どちらが悪いわけでもないのに、ちょっとした違和感やモヤモヤが残る。日常ではよくあることだと思います。
この「受け止め方の違い」は、相続の相談でも頻繁に起こります。
相談の場面では“キーワードの幅”がズレることがある
たとえば、ある方が「手続きを早く進めたい」と言われたとします。
こちらは、戸籍の収集や財産調査を急ぎ、できるだけ早い完了を目指します。
しかし、ご本人としては、「親が亡くなった家の片づけを進められる環境を整えたい」「家族間で曖昧になっている気持ちや距離感を早めに落ち着けたい」という意味での“早く”の場合もあります。
同じ「早く」という言葉でも、指しているものが違う。だから、言葉だけをそのまま受け取ると、いつの間にか互いの方向性がズレていきます。
キーワードの幅がズレると、丁寧に説明しても、どこか噛み合わない。これは相続に限らず、コミュニケーション全般に言えることだと思います。
説明を工夫する前に、受け止め方を確かめる
伝わりづらいと感じたとき、説明の順番や言い換えを工夫することもできます。
ただ、その前に相手がどの意味で受け止めているのかを確認するほうが大切なときもあります。
「“進めたい”というのは、どこからのイメージでしょうか?」
「“すぐに”というのは、だいたいどれくらいの期間を想定されていますか?」
「今日いちばん気になっているのは、どの部分でしょうか?」
こんなふうに、少しだけ別の角度から聞いてみると、表情がふっと変わることがあります。
それまで同じ言葉を使っていたつもりでも、互いに思っていた意味の幅が少し違っていたことに気づく瞬間です。
伝わらないのは、説明が下手だからではなく、受け止め方の幅が双方で違っていただけということが少なくありません。
“正しく伝える”より“ズレている部分に気づく”ことが大切
コミュニケーションというと「誤解なく伝えること」を目指しがちですが、本当は、もう少し柔らかいものなのだと思います。
お互いの受け止め方の違いに気づき、「ああ、そこが違っていたんですね」と確認ができた瞬間、会話は驚くほどスムーズになります。
正確さや理屈よりも、認識のズレに気づくこと。そこに、安心して話せる空気が生まれるのだと思います。
さいごに
言葉はひとつでも、その意味と幅は人それぞれです。
だから、伝わらなかったからといって、必ずしも話し方が悪かったわけではない。
話し方を整えるより、まずは、相手がどう受け止めているのかを知ること。そのほうが、結果的に“伝わる”につながる気がします。
そんなことを感じる出来事が、最近いくつか重なりました。言葉の受け止め方にも、意識を向けていきたいと思います。
