想像力が「相手の受け止め方」を思い描く力だとすれば、妄想力は「その先に起こりうる展開」を一歩踏み込んで考えてみる力なのかもしれません。
妄想という言葉には、少し現実離れした印象があります。ただ、相続や後見の実務に向き合っていると、「そこまで考えなくてもいいだろう」と感じていたことが、後になって現実味を帯びてくる場面に出会うことがあります。
今回は、そんな妄想力と、そこから生まれる「備え」という姿勢について、自分なりに整理してみたいと思います。

妄想力は、現実を疑うためのものではない
妄想力という言葉から、疑いすぎる、構えすぎる、悲観的になる、そんな印象を持たれることもあるかもしれません。
しかし、相続や後見の相談を通じて感じるのは、妄想力は「誰かを疑うための力」ではない、ということです。
たとえば、こちらの説明がどのように受け止められているのか。今は問題がなくても、時間が経ったときにどう思い返されるのか。関係者それぞれが、本当に同じ前提に立っているのか。そうした点を、少し先の時間軸に置いて考えてみるための力に近いように感じています。
現時点では穏やかに進んでいる話でも、環境が変わったり、立場が変わったりすると、同じ出来事が違う意味を持ち始めることがあります。
その可能性に、あらかじめ目を向けておく。それが、実務における妄想力なのだと思います。
「想定外」は、突然現れるわけではない
相続や後見の場面で起こるトラブルは、多くの場合、ある日突然ゼロから生まれるものではありません。
説明の行き違い、受け止め方のズレ、確認を後回しにした部分。
そうした小さな要素が、時間をかけて積み重なり、あるタイミングで表に出てくることが少なくありません。
妄想力とは、「そんなことが起こるとは思わなかった」と振り返る前に、「もしそうなったとしたら、どこで立て直せるだろうか」と考えてみる姿勢でもあります。
最悪の事態を想定する、というよりも、複数の可能性を一度テーブルに並べてみる。
その作業が、結果として安心につながることがあります。
妄想力は、行動を止めるためではなく、選択肢を増やすためにある
妄想力という言葉から、慎重になりすぎて動けなくなる印象を持たれることもありますが、実務の感覚としては、その逆だと感じています。
妄想力を働かせることで、事前に確認しておいたほうがよい点が見えてきたり、あらかじめ説明しておくべきことが整理されたりします。
ときには、「あとで揉めないための一言」が浮かぶこともあれば、書類の意味を、もう一段深く考えるきっかけになることもあります。
妄想力は、不安を増やすためのものではありません。選択肢と備えを増やすための力です。
結果として、相談者の方が落ち着いて判断できる環境づくりにつながっていきます。
妄想力の先にあるのは、「信頼される姿勢」
相談者の方が本当に求めているのは、「すべてを予測すること」ではありません。万が一の可能性も含めて考え、何かが起きたときに、どう道筋を描けるかを一緒に考え、目の前だけでなく、その先にも目を向けている。
そうした姿勢そのものが、安心や信頼につながっていくように感じます。
妄想力とは、未来を当てる力ではなく、未来に備える姿勢なのだと思います。
さいごに
想像力が「相手の立場や受け止め方」を整える力だとすれば、妄想力は「起きうる未来に目を向ける力」なのかもしれません。どちらも、相談者やご家族を守るために欠かせない視点です。
先回りしすぎる必要はありません。ただ、何も起こらない前提だけで進めてしまうことに、少し不安を覚える場面があるのも事実です。
これからも、過剰に心配するのではなく、必要な可能性を一つひとつ意識しながら、備えという姿勢を大切にしていきたい。
そんな妄想力を、日々の実務の中で磨いていきたいと考えています。
