最近テレビで大盛りの店特集や大食いチャレンジ特集の番組をよく見かけます。今では珍しいことではありませんが、大食いチャレンジは昭和の頃にもありました。
これは、高校1年生のKくんが友人2人と共にラーメン店のオヤジと戦った壮絶な物語です。
高校1年生のKくん
高校1年生のKくんは、普段から2時間目の休み時間に購買部で販売される菓子パンをその場で平らげ、お昼休みにもしっかりお弁当を食べる普通の高校生です。
放課後、部活のサッカーの練習が終わる頃にはもうお腹がペコペコです。学校から最寄りの駅までは徒歩10分くらいですが、駅までは商店街です。コンビニ、ファーストフード店、喫茶店、ラーメン店そしてゲーセンなどが建ち並ぶ中、真っ直ぐに駅の改札口に辿り着くのは至難の業です。
大食いチャレンジ情報
そんなある日、サッカー部の先輩から「ラーメン大食いチャレンジ」の話しを聞きました。その商店街の一角にあるラーメン店では超大盛りラーメンを20分以内に間食すると、代金が無料になったうえでその栄誉がお店の壁に張り出されるというものです。
食欲旺盛な高校生にとっては大盛りラーメンを20分で平らげることなんか簡単にクリアできると思っていました。
早速友人2人を誘って翌日チャレンジすることになりました。
いざ出陣
チャレンジ当日は、休み時間の菓子パンは我慢です。戦いに備えてお弁当もほどほどに、腹ペコでの部活もコンディションを万全にするためにはやむを得ません。
部活後3人でいざ出陣です。
商店街には有名なラーメン店が幾つかあります。美味しいと評判のお店は一通り制覇していたつもりでしたが、先輩に教わったそのお店は商店街の奥まったところにある、初めて入るお店でした。
少し古びたそのお店は、5,6脚の椅子があるカウンター席と、4人掛けのテーブルが2卓あり、壁には大食いチャレンジに成功した猛者たちの栄誉が無造作に貼られています。学校名、名前、年齢、完食時間などが20センチほどのカードに記されています。近隣の大学生にまじって、我が高校の生徒のカードもあります。
情報通り、20分以内の完食で無料になるとメニューが張り出されています。ただし、制限時間をオーバーしたり残した場合は2500円を請求されるようです。小遣いの少ない高校生にとっては、何としても成功しなければなりません。
戦いのゴング
カウンター席に座った3人は、チャレンジラーメンを注文します。
その瞬間、白いタオルを頭に巻いた店主のオヤジが不機嫌な表情になったのを見逃しませんでした。夕食の時間にはまだ早い夕方のガラガラの時間帯に高校生3人がタダでラーメンを食べる気マンマンでの注文ですから、そりゃそうです。
お冷やも出して貰えず、店主は厨房に引っ込み調理を始めます。
試合開始
数分後、3つ同時にカウンターに置かれたどんぶりは、見たことがないくらいに巨大です。宅配ピザのLサイズくらいの直径はあります。これは、どんぶりではなくバケツのようです。
ひと目で戦意喪失しそうなくらいの巨大な敵に負けないぞという強い意志をもって割り箸を割ったと同時に、デジタル表示のストップウォッチでカウントダウンが始まりました。
どんぶりを胸の近くに引き寄せます。「えっ?」どんぶりが火傷しそうに熱い。
スープを一口・・熱湯です。
出されたお冷やを上手く使って冷まそうとコップに手を伸ばすと、その中には沸騰したジャスミン茶。
店主の意気込みを感じます。
それでも負けるわけにはいきません。時間との闘いは続きます。
大量の汗が噴き出るなか、3分の1ほど麺が減り、スープが少し冷めてきたところでストップウォッチを見ると、あと10分しかありません。勝利に向けてスピードアップです。
が、麺が減らない。スープも減らない。隣を見ると友人2人も大苦戦。
お互い話しをする余裕もなく、ひたすらバケツの中の物体と汁を口の中に無理矢理押し込みます。
残り1分、隣の2人はあと一歩でゴールです。
残り30秒、やっとバケツの底が見えてきたが、残った大きめのゆで卵がどうしても口の中に入らない。もう限界です。Kくんだけが万事休す。
そのとき、友人が店主に「こいつ卵アレルギーなんだ。ゆで卵食べられないから許してやって。」
「しょうがねーなー、わかったよ。3人ともクリアーだ。」
もちろんKくんは卵アレルギーではありません。友人の機転でなんとか全員クリアーです。新しいカードに書かれた3人の名前が壁に貼りだされ、財布を開けることなく店を出たのでした。
さいごに
食べログの写真や口コミのない時代でしたが、バケツや熱湯の情報を知っていたなら、最初からチャレンジはしていなかったかも知れません。
少しだけズルして勝ち取った栄誉のカードが貼ってあったこのラーメン店は既になくなっています。このラーメン店のあった仙川商店街のある京王線仙川駅は、今では人気のカフェが建ち並ぶ街として注目されているようです。