最近は電子マネーやクレジットカードでの決済が普及したため、お財布にたくさんの現金を入れることが少なくなりましたね。
でも一昔前は、現金払いが当たり前でした。
今回は、一昔前、大金をカバンに入れてドキドキしながら電車に乗っていた、とある営業マンのお話しです。
とある営業マンのお仕事
今回の主人公のとある営業マン(以下「Kくん」と呼びます。)のお仕事は某住宅メーカーの営業です。
Kくんの仕事は、個人や法人のお客様のご自宅や賃貸住宅の建て替えや新築のご相談を受け、ご要望に沿った設備や間取りをご予算に合わせて提案し、自社の建物を建築してもらうことです。
大金をカバンに入れて持ち歩く緊張感
建築請負契約は数千万円にもなります。多くのお客様は住宅ローンを組みますし、自己資金であっても銀行振込が一般的です。
最近ではどの会社でも事故防止のため、営業マンが現金を持ち歩くことはなくなりました。
しかし、Kくんが若い頃の平成の中頃までは、現金や小切手での決済も時々ありました。
例えば
お客様のお宅に訪問して請負契約のクロージングをするときです。商談をして契約締結の合意になると、手付金をお預かりします。翌日銀行にお振り込みいただくのが一般的なのですが、お客様によってはその場で現金をご用意されていることもあります。
領収書をお渡しして現金をお預かりします。
最初の頃は、お客様のお宅を出た後、契約の喜びを噛みしめるとともに、会社に戻る電車の中では現金の入ったアタッシュケースを大事に抱えながら、うたた寝も出来ない緊張感がありました。
手付金200万円
入社2年目、仕事も覚えて上司の手を借りずにひとりで業務をこなせるようになった頃です。お客様は埼玉県近郊の遊休地でアパート経営を検討の開業医のかたです。
数回の商談を経て、その日は設計図面、経営計画書、見積書を持参し契約のクロージングをします。1時間ほどの打合せのあと、数ある住宅メーカーの中からKくんの会社で建築することを快諾いただきました。
準備していた契約書にサインをいただき、手付金の振込みについて説明すると、まさかの質問が・・・
「手付金の200万円は紙幣じゃなくでも大丈夫?」
一瞬意味が解らずにいると、奥様がたくさんの紙袋や布袋を持って応接室に入ってきました。そうです、全部硬貨なのです。
お断りする理由もありませんから、満面の笑顔で「大丈夫ですよ!」と。
そこから、魔の1時間が始まりました。救いは500円玉が多かったことと、1円玉が少なかったことです。
帰りの電車の中で、アタッシュケースがやたらと重たかったことと、会社に戻ってから、メンバーみんなで分担して数え直したことが、何故か妙に楽しかったKくんでした。
現金○○○○万円
このお客様は、地方都市でご商売をされているとだけお伝えしておきます。Kくんが入社3年目の頃でした。
少し強面のそのお客様は、ご契約時から予算は全て現金で用意するとのことでした。
契約時の手付金は、100万円の帯付きが2束でした。以前、200万円分の硬貨を数えた経験のあるKくんにとっては、確認作業もそつなくこなします。それでも帰りの電車ではやっぱり緊張します。
建物の着工のときに、中間金のお支払いがあります。最初から現金のお約束ですので、集金にお伺いします。中間金は1000万円。100万円の帯付き10束です。
さすがに映画やドラマでしか見たことのない札束です。圧倒されます。でも、少しずつ免疫がついてきたKくんは時間をかけて正確に確認します。
皆さんご存じですか?お客様の前で無言で1000万円を確認しているときの空気と時間はとてつもなく独特な雰囲気なのです。汗だくになりながら数え終わって笑顔で「確かに。」と領収書をお渡しします。帰りの電車での緊張感は何倍にも膨れ上がります。
さて、問題は最終金です。建物が完成してお引き渡しになりますが、鍵をお渡しするのは最終金のご入金の確認をしてからになります。
残金全部ですから、今回は1000万円では足りません。大きめなカバンを持ってお宅に向かいます。100万円の帯付きの束が増えて、プラス端数と勝手に想像していました。
甘かった・・・
お客様がご用意した○○○○万円は、帯付きではありませんでした。無造作に輪ゴムで束ねられた新旧のお札を丁寧に袋から出しながら、どのようなお金なのかは考えることはせず、ひたすら無言で数えたのでした。
さいごに
人間慣れとは恐いもので、お引き渡しという大きな仕事が終わった開放感からなのか、会社へ帰る電車の中で数千万円の現金の入ったカバンを膝の上で抱えながら爆睡する若き日のKくんでした。