相続や終活というテーマに向き合うとき、「意思」と「意志」という2つの言葉に向き合うことが求められる場面があります。「意思」は、自分の気持ちや考えを表現するものであり、「意志」は、その考えを実現しようとする力です。
今回は、相続や終活の場面での「意思」と「意志」の違いについて考えてみたいと思います。
意思と意志
「相続」や「終活」という言葉が気になり始めるのは、人生の中でも大きな節目を迎えたときではないでしょうか。親の介護や子どもの独立、そして自分自身のこれからを考える中で、多くの方がふと立ち止まる瞬間を迎えるものです。
そんなとき、自分の気持ちを整理する中で重要になるのが、「意思」と「意志」という二つの言葉です。
「意思」とは、何をするか、どのように選択するかを表すものです。
一方「意志」とは、心の奥底にある、自分がどうありたいかを示す強い願いや決意を指します。
この二つの言葉は似ているようで、実は異なる意味を持ち、終活や相続を考える際にとても大切な役割を果たします。
意思が先か、意志が先か
たとえば、「遺言書を書こう」と決意したとき、最初に浮かぶのは「どの財産を、誰に渡すのか」といった具体的な内容、つまり「意思」です。しかし、その「意思」の背後には、「家族に余計な負担をかけたくない」「自分の死後も、家族が仲良くしてほしい」という深い「意志」が隠れていることが多いのです。
私がご相談を受ける中で感じるのは、多くの方が本当に望んでいることは、「財産をどう分けるか」という手続きそのものではなく、「自分の想いをどう形にするか」にある、ということです。だからこそ、ご相談者との対話では、手続きだけでなく、その方が本当に大切にしたい「意志」に触れるよう心がけています。
意志をかたちに
終活や相続の場面では、「意思」がしっかりしていれば、それに基づいた手続きは進めやすいものです。しかし、「意志」が曖昧なままだと、後々家族間で誤解やトラブルが生じることがあります。
ある相談者がこう話されました。「子どもたちには公平に財産を分けたい」
これは具体的で明確な「意思」です。しかし、その背後には「家族がこれからも仲良く過ごしてほしい」という強い「意志」が込められていました。そこで、この意志を大切にしながら、子どもたちそれぞれの状況に配慮した方法を一緒に考えた結果、その方は安心して遺言書を作成することができました。
「意志」を見つめ直すことで、新たなかたちに繋がります。
どうありたいか
歳を重ねると、親のこと、子どものこと、そして自分自身の老後のことが頭をよぎるようになります。「何をどうするか」という選択に追われる中で、自分が「どうありたいか」という「意志」を考える時間を持つことも、大切です。
私自身、行政書士としてご相談を受ける中で、相談者の意思を形にするお手伝いをする一方で、その背後にある「意志」に触れるたびに、自分自身の意志を問い直すことがあります。「自分はどうありたいのか」「専門家としてどんな存在でありたいのか」を振り返ることで、より良いサポートに繋げたいと考えています。
さいごに
相続や終活を考えるとき、「意思」と「意志」の両方が大切です。ただし、「意思」を決めるためには、その基盤となる「意志」を見つめ直すことが欠かせません。
日々の生活の中で、どうしても目の前の問題やタスクに追われてしまうものですが、時には立ち止まって、「自分の意志」を意識する時間を大切にしたいものです。