ある日突然、見も知らずの若い営業マンが訪ねてきて「あなたの家の塀を壊させてください」と言われたら、どうしますか?
快く、「いいですよ!」って言うひとは、まずいないでしょう。
今回は、若い営業マンの「あなたの家の塀を壊させてくださいプロジェクト」のお話しです。
若い営業マンのお仕事
今回の主人公の若い営業マン(以下「Kくん」と呼びます。)のお仕事は他人の家の塀を壊すことではありません。某住宅メーカーの営業です。
Kくんの仕事は、個人のお客様のご自宅の建て替えや新築のご相談を受け、ご要望に沿った設備や間取りをご予算に合わせて提案し、自社の建物を建築してもらうことです。
お客様にとっては一生の買い物ですから、Kくんの会社だけではなく、たくさんのライバル会社にも声をかけて比較検討します。
社内では毎月の営業成績も気になります。まずは、自社で建築請負契約を締結していただくことが、当面の目標です。
契約に向けて
このお客様の建築地は、井の頭線沿線の武蔵野の面影が残る住宅街。数ある住宅メーカーの中からKくんの会社を第一候補として検討されています。担当のKくんにも信頼を寄せてくれています。契約に向けて力が入ります。
住宅の見積もりは、建物の見積もりだけではなく、建築地の個別の現地調査と工事費用の見積もりが必要になります。そのため、設計、工事をはじめ、外構、解体、水道、電気などのたくさんの担当者の力が必要です。
それぞれの担当から営業のKくんに報告書類が集まってきます。
トラックが入らない
報告書の中に紛れてマサカの事実が。設備を搬入するための大型トラックが建築地まで進入出来ないとのことでした。
お客様の建築地周辺の道路は決して狭くはないのですが、幹線道路から住宅地に入っていく道路の一部がどうしてもトラックが曲がりきれないのです。
そこは、坂道、カーブ、電柱、電線と難関だらけです。何度も現地に足を運んでみるものの、打開策は見つかりません。
あのカーブの先の邸宅の塀さえなかったらなぁ(心のつぶやき)
ん?・・・
お客様に報告
まだ契約前ですので、搬入不可という理由で商談打ち切りも出来ました。
ところが、有り難いことにご家族皆さんがKくんの会社を気に入ってくれています。さあ、ジレンマです。
お客様には、搬入の大型トラックが進入できないこと、他の住宅メーカーさんなら可能性があることを正直にお伝えしました。その上でKくんが現地で思った心のつぶやきをお話ししました。
この心のつぶやきがきっかけに「あなたの家の塀を壊させてくださいプロジェクト」がスタートしました。
塀の所有者へ
Kくんは塀の所有者のお宅に、何度も通ったようです。最初は近所で工事をすることになったことのご挨拶をし、その後、大型トラックのお話し、塀の撤去、修復のお願いや、費用負担など、ひとつひとつ丁寧に合意しながら進めていきます。
そのときのKくんは、上手な駆け引きなどは一切考えることはなく、ただ、塀の所有者のかたへのご迷惑をどのようにすれば最小限になるかを考えました。撤去中の防犯や、細かいスケジュールなどです。
塀の撤去を承諾いただき、工事の着工が可能になったのは、工事着工予定の1ヶ月前でした。それから数ヶ月後、大きなトラブルもなく、お客様の住宅は完工し、撤去された塀は新しく修復されました。
さいごに
その後、Kくんが撤去した塀の所有者のかたから声を掛けていただき、土地活用として隣接する遊休地に賃貸アパートを建築いただくことになったようです。ご縁とは不思議なものですね。