結論の前に、情報の輪郭を整える

先日、学生の頃からよく読んでいた落合信彦さんの訃報に触れました。読み物として面白かった、というだけではなく、「同じ出来事でも、見えているものは一部に過ぎない」という感覚を、若い頃の私は、あの文章を通じて、少しずつ身につけていったように思います。

年を重ねてあらためて思うのは、情報は集めただけでは足りず、状況に当てはめてはじめて意味を持つ、ということです。以前「情報と情報の違い」というテーマで、情報を“意味に変える”感覚を自分なりに整理したことがありますが、今回はそこからもう一歩、いまの時代の空気の中で考えてみたいと思います。

 情報が多いほど、判断が軽くなることがある

いまは、調べようと思えば、たいていのことがすぐに見つかります。手続の概要も、制度の仕組みも、検索すれば一通り出てくる。便利になった一方で、情報の量が多いほど、判断が軽くなってしまう場面もあるように見えます。

理由は単純で、「知った」ことで安心してしまうからです。見出しを読んだ。要点を押さえた。結論だけ把握した。そこまで到達すると、理解した気になりやすい。しかし実務の現場で問われるのは、その情報が「自分(あるいは家族)の状況で、そのまま当てはまるのか」という点です。

情報そのものは同じでも、前提が変われば意味が変わります。期限、関係者、財産の種類、本人の状態、家族関係。条件が少し違うだけで、結論が変わることは珍しくありません。

「事実」と「意味」の間には、いつも距離がある

落合信彦さんの文章は、事件や国際情勢といった題材を扱いながらも、表に出ている事実を並べるだけではなく、「その事実は、どんな構造の中で起きているのか」という問いを読者に投げかけてきたように思います。

実務でも、この距離は常に意識するところです。たとえば、制度の説明を受けた、書類を読んだ、手続の流れを理解した。それらは「事実」を知る段階です。しかし、次に必要なのは「意味」に落とす作業です。

この手続を進めたら、何が変わるのか。誰の負担が増えるのか。あとからやり直せないのは、どの部分なのか。

説明を受けたその場では納得しても、時間が経ってから「ここはどういう意味だったのだろう」と疑問が浮かぶこともあります。だからこそ、情報を“意味”に変えるための時間を、最初に確保しておきたい。

“事実を知る”ことと“意味をつくる”ことは似ているようで別であり、この違いを意識できるかどうかで、決めたあとに迷いが残りにくくなります。

情報を「使える形」にするのは、輪郭を整えること

情報を活かすとき、大切なのは、たくさん集めることではなく、輪郭を整えることです。増やすより整える。広げるより絞る。そうして初めて、判断材料になります。

たとえば相続の相談では、ネットで見た断片的な情報が、かえって不安を膨らませてしまうことがあります。「うちは相続放棄した方がいいのか」「共有は危ないと書いてあった」「遺言がないと揉めるらしい」。どれも一般論としては間違いではないのですが、そのまま当てはめると、話が散ってしまい、かえって結論が遠のくことがあります。

大切なのは、情報が正しいかどうかの確認に終始することではなく、前提を確かめることです。

誰が相続人なのか。何が財産なのか。期限はいつなのか。本人や家族の意向はどうか。いまの状況で、何を優先したいのか。こうした条件を並べ、優先順位をつけ、筋道を通す。そうすると、「この家の場合、ここがポイントになる」という輪郭が少しずつ見えてきます。

成年後見の見直しの議論でも、似た方向を感じます。制度の枠を先に決めるのではなく、「どこで困っているのか」「どの場面に支えが必要か」を見極めて組み立てていく。制度を選ぶことそのものより前に、困りごとの輪郭を整える。情報を“使える形”にするという話は、こうした制度の方向性とも重なって見えます。

さいごに

訃報に触れると、その人の作品だけでなく、自分がその本を読んでいた頃の時間まで一緒に思い出されます。あの頃の自分が何に惹かれ、何を面白いと感じ、何を掴もうとしていたのか。そうしたものが、当時の温度のまま残っていたことに気づきます。

最近の報道では、国の情報の扱い方や、体制をどう整えるかといった議論が改めて俎上に載っているようです。議論の是非はさておき、私が学生の頃に読んだ落合信彦さんの本の中には、「日本にはまだ整っていない」として語られていた論点がありました。時を経て、似たテーマが現実の課題として語られ始めていることに、どこか不思議な巡り合わせを感じます。

情報が溢れる時代だからこそ、いま自分に必要なのは何かを見極め、状況に当てはめ、使える形に整える。その順番を丁寧に扱っていきたい。相続や後見の現場でも、結論を急ぐより先に、理解の整理を置く。その姿勢は、これからも崩さないでいたいものです。
本棚に並ぶ一冊を、久しぶりに開いてみようと思います。

以前、「情報」をどう扱うかについて、もう少し別の角度から書いたことがあります(よろしければこちらも)。

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この記事を書いた人

栗田 政和

栗田 政和

東京都府中市出身、現在は立川市内に在住。
中央大学法学部卒。
大学卒業後、住宅メーカーに32年勤務した後独立し、
行政書士栗田法務事務所を開業。
現在は行政書士兼相続コンサルタントとして、
立川近郊の相続問題に悩む方の助けになるべく奮闘中。
趣味はバイクツーリング、温泉巡り、幕末歴史小説、プロ野球観戦。