私は行政書士として、日々多くの相続手続きのお手伝いをしています。
相談にいらっしゃる方の多くは、大切な人を亡くした直後という、最も辛く、心が落ち着かない時期にいらっしゃいます。そのような状況で、複雑な相続手続きが次々に必要となることに、皆さまがどれだけ負担を感じているかを肌で感じてきました。
そこで今回は、私が実務でいつも大切にしているポイントを踏まえ、相続手続きの基本的な流れと注意点を整理してお伝えしたいと思います。
【1】まず最初に行うこと ~慌てないための心得~
相続が発生すると、まず直面するのは「死亡届」の提出や葬儀などの手続きです。
特に死亡届は7日以内に提出しなければならないなど、短期間での手続きが求められます。私はいつも「慌てず、まずは手続きの全体像を把握しましょう」と相談者の方にお伝えしています。焦る気持ちは分かりますが、一歩ずつ着実に進めることが、結果的にご家族の負担を和らげます。
また、葬儀費用の領収書は必ず保管しておきましょう。後の相続税の申告で役立ちます。
【2】相続人・相続財産の確認 ~家族の歴史に触れる~
次に行うのが、相続人の調査と相続財産の把握です。
戸籍収集は、実は「家族の歴史」を紐解く作業でもあります。
意外な方が相続人として登場することもあり、ご相談者が戸惑われることも少なくありません。私自身も行政書士として、この調査の中でご家族の複雑な人間模様に触れることがあります。
また、相続財産の調査では「隠れた財産」を発見する場合もあり、丁寧さが求められます。
相談者から「こんな財産があったとは…」と驚きの声を聞くこともありますが、ここが後のトラブルを避ける鍵でもあります。
【3】相続放棄の判断(3か月以内) ~期限が短い理由~
相続放棄の手続きは、亡くなったことを知った日から3か月以内に決定しなければなりません。
私が特にこの期限を強調してお伝えする理由は、「負の遺産」によってご家族が経済的に追い詰められる状況を防ぐためです。辛いお気持ちのなかでの判断は難しいですが、だからこそ早めにご相談いただきたいと思っています。
【4】準確定申告(4か月以内) ~忘れてはならない大切な手続き~
亡くなった方に収入があった場合、準確定申告が必要です。「4か月以内」という短期間ですが、申告漏れがないよう丁寧に対応することで、後の安心に繋がります。
【5】遺産分割協議 ~「うちは大丈夫」の落とし穴~
多くの方が遺産分割について「うちに限ってトラブルはない」と考えています。しかし、実務で私が目にしてきたのは、仲の良かった家族ほど深刻な感情のもつれが生じやすいという現実です。
だからこそ、私は「ご家族の関係が良好なうちに話し合いを始める」ことを強くお勧めしています。家族の絆を守るためには、早めの対話が最も効果的です。
【6】相続財産の名義変更 ~未来のために確実に~
預貯金や不動産の名義変更は、細かな手続きが多く、正直なところ面倒に感じる方も多いと思います。しかし、令和6年4月から相続登記の義務化が始まり、怠ると罰則もあります。
ご家族が後で困らないように、「未来のための準備」として確実に進めましょう。
【7】相続税の申告・納付(10か月以内) ~冷静さが最も必要~
相続税の申告は専門性が高く、誤りが許されにくい分野です。多くの方が「自分で何とかできるだろう」と考えがちですが、私は相続税に関しては税理士の力を借りることをおすすめしています。
冷静な判断と専門家のサポートがあれば、安心して手続きを終えられます。
大切な3つの注意点 ~実務からのメッセージ~
期限管理の徹底
相続手続きには様々な期限があり、一つでも期限を過ぎると取り返しがつかない場合もあります。私は日頃から「手帳やカレンダーなどを活用し、期限の見落としがないよう管理しましょう」とお伝えしています。ご家族が安心して手続きを終えるためにも大切なポイントです。
専門家に頼る勇気
すべての手続きをご自身だけで進めようとせず、専門家を上手に活用していただきたいと思っています。「専門家に頼ること」は、決して手抜きではなく、ご家族の安心のための賢い選択です。
財産調査の丁寧さ
財産の漏れは、相続人間の感情的な不信感を生みます。後の負担を減らすためにも、財産調査は丁寧かつ慎重に進めましょう。
まとめ
私はいつも、相続手続きをただの「手続き」とは捉えていません。それは亡くなった方の想いをきちんと引き継ぐための、大切な儀式だと感じています。だからこそ、正しい知識と温かい気持ちを持って、皆さまのそばにいたいと思っています。
大切な人を想いながら、安心して手続きを進めるための道しるべとなれば幸いです。
※この記事は2022年5月30日に作成した内容を、最新情報や筆者の想いを反映してリライトしました。