「割愛します」という言葉を耳にすることがあります。一般的には「省略する」という意味で使われることが多いですが、本来の意味は「愛するものを断腸の思いで手放す」というものです。単に不要なものを切り捨てるのではなく、大切なものの中から何かを選び、何かを手放すという決断を伴う言葉です。
相続や終活に向き合うとき、私たちは何を大切にし、何を手放すのかを考えます。それは財産のことだけではなく、人との関係や想いの整理にも関わります。すべてを抱え込もうとすると、本当に必要なものが見えにくくなることもあります。
今回は「割愛」という視点を通して、相続や終活における選択の大切さについて考えてみたいと思います。

遺言:「何を伝えるか」よりも「どんな想いを託すか」
遺言では、財産をどう分けるかを決めるだけではなく、自分の「想い」を残す行為でもあります。しかし、すべてを書き尽くそうとすると、かえって本当に伝えたいことがぼやけてしまうこともあります。
「これを伝えなければ」と考えるのと同時に、「この想いを残すことで、家族がどんな気持ちになるだろう」と想像することも大切です。そうすることで、無理に言葉を尽くすのではなく、必要な部分を「割愛」する勇気が持てるかもしれません。
「すべてを伝えたい」という気持ちを持つことは自然なことですが、時には「言葉にならない想いがあること」を受け入れることも大切です。残された人が、受け取った言葉の中に、伝えきれなかった想いを感じ取ることもあるかもしれません。
財産整理:「何を手放すか」ではなく「何を大切にするか」
終活の一環として財産の整理を考えるとき、どうしても「何を手放すか」という視点に意識が向きがちです。しかし、本当に大切なのは「何を残したいのか」を見極めることです。
財産だけでなく、思い出の品や家族へのメッセージも、終活の中で整理していくものの一つです。しかし、すべてを残そうとすると、残された人にとって負担になってしまうこともあります。たとえば、大量のアルバムや遺品、土地や家屋など、形あるものをすべて残すことが、必ずしも良い選択とは限りません。
「これは手放しても大丈夫だろうか」と悩むのではなく、「何を残すことが、家族にとって本当に意味のあるものなのか」と考えることが大切です。大切なものを守るために、あえて手放す決断をすることも、家族への想いの一つなのかもしれません。
家族関係:「過去のしがらみをどう整理するか」
相続をめぐる家族の関係は、時に複雑です。長年のわだかまりや誤解があると、話し合いがスムーズに進まないこともあります。
「すべてを話し合いで解決しなければならない」と思うと、かえって関係がこじれてしまうこともあります。大切なのは、過去のしがらみをすべて整理しようとするのではなく、「これからどう関係を築いていくか」に目を向けることです。
時には、過去の出来事に対して「割愛する」ことも一つの方法です。過去にこだわることで、前に進めなくなることもあります。すべてを白黒つけようとするのではなく、「未来に向けて、今どのような選択をすべきか」を考えることが、より良い関係につながることもあるからです。
「割愛」の先に見えてくるもの
何かを手放すということは、失うことではなく、「本当に大切なものを選び取る」ことです。相続や終活の場面で迷うことがあっても、「何を手放すか」ではなく、「何を残したいか」という視点で考えることで、より前向きな選択ができるのではないでしょうか。
・遺言は、「伝えたいこと」を絞ることで、本当に伝えたい想いが明確になる。
・財産整理は、「何を手放すか」ではなく、「何を残すか」を考えることが大切。
・家族関係では、過去よりもこれからを大切にする視点を持つ。
相続や終活に向き合うことは、自分の人生と向き合うことでもあります。何を選び、何を手放すか。その選択は、決して簡単ではありません。しかし、「割愛する」ことで、見えてくるものが必ずあるはずです。
さいごに
何かを手放すことは、時に不安を伴います。しかし、不要なものを手放したとき、新しい空間や時間が生まれ、新しい価値が見えてくることがあります。
相続や終活も同じかもしれません。「何を伝え、何を遺すのか」を考えることは、「これからどう生きるか」を考えることでもあります。
「割愛する」という言葉には、一見ネガティブな響きがありますが、本来は「未来のために選び取る」行為なのかもしれません。そう考えると、「手放すこと」もまた、一つの前向きな選択になりそうです。