学生の頃、一般教養の倫理の授業で教わったアリストテレスのことが、ふと脳裏を横切りました。
クライアントと向き合うとき、セミナーをするときのひとつの指標として、整理してみました。
今回は、「アリストテレスの三要素」のおはなしです。
アリストテレスの弁論術
ご存じアリストテレスは、約2300年前の古代ギリシャの哲学者です。
当時のギリシャでは、現代のように政治家や弁護士のような専門家はいません。市民自ら法廷や議会で主張します。そこで、市民が法廷や議会で民衆を説得させるための弁論術を教える教師(ソフィストといいます。)が次々に登場したといいます。
しかし、この弁論のテクニックは、聴衆や陪審員をあおったり、なだめたりする感情論が主流で議論の本質や中身は二の次でした。
これに対してアリストテレスは、感情論だけで聴衆を説得するものではないとして、自ら聴衆を説得するためのメゾットを書き上げました。これがアリストテレスの「弁論術」です。
アリストテレスの三要素
「弁論術」の第1巻第二章に、このように記されています。
「言論を通してわれわれの手で得られる説得には三つの種類がある。すなわち、一つは論者の人柄にかかっている説得であり、いま一つは聴き手の心が或る状態に置かれることによるもの、そうしてもう一つは、言論そのものにかかっているもので、言論が証明を与えている、もしくは与えているように見えることから生じる説得である」
すなわち、
- 話す人の人柄
- 聴く人の気分
- 話の内容の正しさ
この3つが「アリストテレスの三要素」です。
話す人の人柄
話し手の人間性が重要だということです。いかに相手から信頼してもらえるか。これが大切です。
信頼される秘訣とは
・思慮深いこと
相手にとって何が大切なことなのかを一番に考えることです。
こちらの一方的な解釈でことを進めるのではなく、相手が本当に求めていることを明確にしたうえで、それを実現するために何が良い提案なのかを見極めること。
この考えは、常に意識していることですので、これからも一層注力したいものです。
・徳を備えていること
人として立派であるための必要な性質を備えることです。
法律やルールに従って物事を公平に考えることができ、危機や困難を前にしても立ち向かい、快楽にも負けず金銭的に他人を助けることができ、常にギブの精神を持ち、いざとなれば大きな支出も厭わず相手の幸せを考えた上で善悪の判断ができる。
これがアリストテレスの考える、徳を備えた人の姿です。
具体的には正義・勇気・節制・気前の良さ・度量の大きさ・鷹揚・思慮、これら7つの項目をその状況に合わせて選択していくことです。
なかなかハードルが高いですね。
・聞き手に対して好意をもっていること
これは、相手に対して自分が好意をもっていることをわかってもらうことです。
味方であるということを、本気で全力で伝えること。「好意」を示さなければ伝わるものも伝わらない。確かにそうですね。
「何を話すか」よりも「誰が話すか」が大切なのですね。
聴く人の気分
相手のそのときの気分によって物事の受け止め方が変わるといいます。
穏やかな気分のときとイライラした気分のときでは、同じことでも受け止め方が違ってしまいます。
そのときの相手の気分で左右され、論理だけでは伝わらないこともあるということですね。
話の内容の正しさ
内容が正しいことは当然ですが、ここでは伝え方のテクニックも記されています。
・テーマにかかわる具体的事実
・権威性によって根拠を強める
・相手の言動を根拠にする
などなどです。
テクニックも大切ですが、私にとっては一貫性をもって制度趣旨を正確にお伝えすることが重要だと考えます。
さいごに
クライアントと向き合うイメージをしながら「アリストテレスの三要素」を整理してみました。
相手の気分によって受け止め方が変わるという考え方は、「確かに!」と思う反面、普段なかなか意識していなかった要素です。(家庭では日々妻の気分を見極める修行をしているのに・・・)
この三要素で最優先したいのは、「話す人の人柄」です。信頼されることの大切さを意識したいものです。